(十四) ライジュア島行きの計画は、チィチィと手紙のやりとりで丹念に打ち合わせておいたので問題はなかったが、ネックは順子だった。 順子にはサウ島に残ることを一応承諾させてはいたが、部屋にこもって煙草ばかり吸っている順子を見ていると、ひとりここ…
日本に戻っても、私の胸の中で高まっている興奮はいっこうにおさまらず、何をしていても、まだ見ぬライジュア島を想像したり、石投げ合戦と日本の豆まきとの関連を考えてみたりする日が続いていた。 それが、他人の目には、まるで私がバリ島あたりの男に溺れ…
その晩、チィチィの言っていたとおり、ファイサルが中肉中背で五十はとうに越している男と宿屋にやってきた。 パラドである。 パラドに限らず、この島の人たちは日本人にそっくりの容貌をした人が多い。特にパラドは、それが顕著で、その浅黒い顔をいくらか…
宿屋の裏でニワトリと遊ぶ邦子と仁 鶏肉を食べた次の日の昼頃、私達親子を空港から宿屋に案内してくれたファイサルが、昔話を知っているという六十過ぎで丸顔のオビという男を連れてやってきた。 やたらニタニタ笑う男で、笑うたびに、かろうじて残っている…
旦那やおかみさん、それにファイサルにも、私はここに昔話を聞きに来たのだから、話のできる人がいたら教えて欲しいと宣伝しておいた。 しかし、脳のどこかの神経がきれてしまったかのように、丸一日半、私は泥のように眠っていた。 子どもたちは日本から持…
渡辺さんたちと空港で別れて、私たちはサウ島へ向かう双発プロペラ機に乗った。 飛行機は、ひどいものだった。 錆びついた外壁、破れかかった座席、ボデイに描かれている“ヌサンタラ エアラインズの文字まで薄汚れていた。 ここの人たちにとって料金が高いせ…
ー スンバワ島の東端の町、ビマから飛行機でチモール島クパンへ ー 飛行場はティモール島の南端の町、クパン郊外にあった。 地理的条件から、バリ島以東の島々に飛ぶ飛行機の重要中継地点になっている。それだけで空港はどことなく開放的で明るく、田舎都会…
あくる日は、スンバワ島の西にあるスンバワブサールから東端の町、ビマまでバスで横断して向かう日だった。 朝からせわしく、近所の人やアレックスの友だちが入れ替わり立ち代わり顔を出しては、 「また、いらっしゃいね」 と言って帰っていく。 アレックス…
地図で見ると、スンバワ島の北にダチョウの頭のような格好をした島、モヨ島である。 アレックスの話では、二つぐらい村があり、野ブタや牛、鹿、様々な美しい鳥、そして大蛇までいるという。 私が 「昔話はあるの?」 と、訊いたら、奥さんと二人でゲラゲラ…
晩になるとマラリヤにかかるのを恐れて、窓をしめきったまま蚊取り線香をたいて床についた。スンバワでの初夜は、疲れ切って死んだように眠りこけてしまったから何とも感じなかったが、その晩はいささかまいった。 床について半時間もたたないうちに、四畳半…